俺の居場所
「お先でしたぁ」
「おー早いな!今日は頼むなっ。稼ぎ時だからさっ!」
「はいっ!がんばります」
彩袋が笑顔で答えながら、ぶかぶかのエプロンを身につけた。
学友は彩袋と、色とりどりのリボンや花を仕分けしているとフッと背後に
視線を感じた。振りかえると澄慶が顔を半分だけ覗かせてこちらを見ていた。
「な、何?」
「いやぁさっきの話なんだけど・・・大体何時になるかなぁーなんて・・」
「さっきも言ったけど、今日は忙しくなるからはっきりとはわかんね」
「そっか・・・」
「終わったら、そっち覗くからさ」
「解った」
そう言うと、澄慶は顔を引っ込め、自分の店へと戻って行った。
2人のやり取りを見ていた彩袋には意味が飲みこめなかった。
「何ですか?」
「いや、仕事が済んだら飯でも行こうかって話だ」
「そうなんですか。いいなぁ・・・でも昨日店長、澄慶さんのこと
嫌いって言ってましたよね?」
「おー嫌いだ!でもあいつおごるってしつこくってさ」
「そうですか・・・」
彩袋は少し寂しそうに俯いた。少しの沈黙が二人を包んだ。学友は
この状況に耐えきれず、咳払いした。
「彩袋も一緒に行こうよ」
「でもー・・・・」
「俺のおごりじゃないけど、奴には俺がちゃんと言っとくし、それに
男二人ってつまらんしさ!きわめ付けに奴、阿袋の事気に入ってるみてぇだし」
先ほどまで、ブルーの入っていた彩袋の顔が明らかにピンクに変わった。
解りやすい彩袋に、思わず学友も笑顔になった。ほのぼのしていると、
急に店内がざわめき出した。
「すみませーん、この花を200hk$くらいでラッピングしてください」
レスリーのコンサートの開場時間が近づいてきたようだ。店内は、いつもの
静けさもどこへやら、若い男女で湧いていた。学友は笑顔で、彩袋も丁寧に
対応しながら、次々と注文どおりの花束を作り上げ、客をさばいて行った。
コンサートはありがたいものである。学友は
ひしひしと思った。花が好きで、花屋をやったはいいが、
売れないと、おまんまの食い上げなのだ。いつからコンサートの上演中に、
花を渡す、それを受け取る明星の習慣が始まったのかは知らないが、今では
コンサート中に花をやり取りしない方がめずらしいと来ている。コンサートは
年間、月間とコンスタントに行われているから、普段が暇でも、ここでまき返しが
利いた。花が好きで、しかもそれで商売出来て、何とも一石二鳥
なのだと学友は思った。今でこそ、商売じみた考えが出来るようになったが、
花屋をやろうと決めた頃は、これで食っていこうなんて考えたことも無かった。
毎日好きな花を見ているだけで良い、そう思っていた。初めの頃は、花が
売れると悲しかった。ちゃんと枯れない様にしてくれるんだろうかと心配しながら
花を売ったものだった。時には、客を選んだ時もあった。
花を物扱いするような客には、決して売らなかった。それほど花が好きなのだ。
花を見ていると、幼少の頃の大切な思い出が蘇ってくる。あの頃の大切な思い出が
・・・・。
その気持ちは今も変わらないつもりだけど、年のせいか、時代なのか、少し考え方が
変わってきたようだ。とにもかくにも、今現在コンサート様様である。
「ふぅっ!終わった・・・」
「お疲れ様です!すごかったですね」
たった数時間で、半月分くらいの売上となった。
「さすがレスリーだなっ!すごいファンだ・・・しんどい・・」
「次は誰のコンサートですかねぇ?!」
「ほんっとご苦労様!これ大入り」
「ありがとうございます。いつもすみません・・」
「いやっ!忙しいときだけだから、それに大した金額じゃねーし」
学友が、ゴミを片付けていると、また先ほどと同じような妙な視線を
感じた。
「終わったんか?」
また、顔を半分だけ覗かせている、澄慶が立っていた。
「おー何とか終了した。もうちょっと待ってくれ。あっそうそう阿袋
も一緒に良いだろ?」
「えっ?あ、あぁ・・そりゃいいともさっ!じゃー後で・・・」
「へんな奴」
そう言うと、澄慶はまた、自分の店に戻って行った。
「私本当にお邪魔しちゃっていいんですか?」
「何で?いいに決まっとるでしょ!」
澄慶の店には、自慢の鳥かごをぶら下げて、お茶を飲みながら
将棋を打っているおじいさん二人が客として残っていた。
「ごめん。今日はもう閉店しよーかなぁ・・・なーんて」
「なんじゃ?これから詰めじゃと言うのに」
「明日また来てくださいよー俺が将棋の相手しますから!」
「兄ちゃん打てるのか?」
「こう見えても、将棋は自信があるんですよ!自称ですけど・・・」
「ふんっ!じゃー明日お手並み拝見じゃな。じゃー劉爺さん行こうかの」
「本当にごめんよー今日は・・・」
「おー若いの!この店がんばって続けてくれよ。ちょこちょこ顔出すから」
お爺さん二人は、鳥かごを手にし、テーブルに100$札を1枚置いた。
「林叔!多すぎますよ!」
「ええんじゃ・・・じゃぁ明日楽しみにしとるぞ」
お爺さん達は、澄慶に手を振って帰っていった。
澄慶は洗物もそのまま
さっさと店を閉めた。表に出て、扉を閉める。今朝学友に鉄扉の開け方を
伝授してもらったので、安心して鉄扉をがちゃりと閉めた。
しかし不安になったので、学友直伝の開け方を試してみると、壊れそうな
鈍い音はするものの、ちゃんと開いた。嬉しさのあまり、澄慶は学友の店に
飛びこんだ。
「学友!開いたぞ!」
「何が?」
「鉄扉が!!」
「そんなことで一々報告に来てんじゃねーよ」
学友は、澄慶の相手もそこそこ、彩袋にすぐ支度をするように伝えた。
彩袋は、あわててエプロンを外しバッグを取りに、奥へ入っていった。
「おーい阿袋!まだかー?」
「はーいすぐ行きます」
学友は、彩袋が店外に出るのを待って、電気を消し、鉄扉を閉めた。
「閉めるとき、同じ音するんだな」
鉄扉を閉める鈍い音に、澄慶は嬉しそうに言った。
「お前変な奴だな・・・妙な所で感動してんじゃねーぞ」
「学友、どこへ行くんや?」
「じゃー俺のお奨めの店にするか!?」
「おー!俺全然わっかんねーから、任すわ」
「あっ店長!私家に電話入れなきゃ・・・あの先の公衆電話の所に
先に行ってかけてきます。」
彩袋は、手を振って、先に走って行った。
「今日はさぁ・・・」
「んっ?!」
「あっいやー何でも無い」
ゆっくり歩きながら話していると、電話が終わったのか、二人がゆっくりすぎるから
なのか、彩袋がまた走って戻ってきた。
「ごめんなさい。せっかく楽しみにしていたんですけど、電話したら
今日は、家に誰もいなくって、弟の面倒を見なくちゃいけなくなったんで、
お食事行けなくなっちゃいました。本当にごめんなさい」
「そうかー阿袋も大変だよなっ・・・また行こうなっ!」
「澄慶さんも本当にごめんなさい」
「いやーしょうがないなー野郎二人じゃつまんねーけど、行ってくるわ」
「また誘ってくださいね!」
「気をつけてな!また明日も頼むなっ!」
「はい。今日は本当にお疲れ様でした。失礼します」
彩袋は、先ほどの電話を掛けに行くときとは、また違った感じで
走って帰っていった。澄慶と学友は彩袋を見送ると、明かりの少ない
海街を歩き出した。
「どの辺りにあるんよ?」
「もうちょっと歩いたとこ」
明かりが、ぽつぽつしかない中、一際賑わっている店があった。
小さな店であったが、店内は人でうめ尽くされていた。空席がないので
路上に出ている、テーブルに腰掛けた。少しすると、油で汚れた
元は白だった前掛けをつけたおやじが、お茶を持ってやってきた。
「おー学友じゃねーか!今日は何する?」
「いつもの2人前と・・・・あっお前ビール飲む?」
「少しなら・・・」
「・・・とビール2本頼む」
店のおやじは、広告の切れ端にオーダーを書きなぐって店の中へ
消えていった。威勢の良い声が聞こえてくる。すぐに、プラスチック
のコップ2個と、サンミゲル2本を持ってぶっきらぼうにテーブルの
上に置くと、また店内へ入って行った。二人はビールを注ぎ合い、
グラスを合わせた。
「いつものって、よく来るんか?」
「たいてい晩飯はここで済ましてる。帰っても誰も作ってくんねーし」
「彼女とかいねぇの?」
「いたけどなぁ・・って、何の話させるんだよ!」
「なぁなぁ何で花屋なんだ?似合わねぇ・・・」
「うるせーなぁどうだっていいだろ!じゃーなんでお前こそ
小鳥屋なんだよ!似合わなすぎだぞ!!」
「俺は鳥が好きやからや。他に理由は無い!」
「俺も花が好きだからだ。他に理由は無い!」
「お前のその台湾なまりの広東語は、気持ちがわりぃな」
「しょうがねぇだろ、香港生まれの台湾育ちなんやから!」
子供のような討論をしていると、良い匂いが漂ってきた。
「はいよっおまちっ!」
海老をにんにくと一緒に炒めた物。菜の花をゆでてオイスターソースを
ぶっかけた物。ホタテとグリンピースを生姜と一緒に炒めた物、ご飯2個
が目の前に並べられた。二人のおなかが同時に鳴り、討論は一時休戦となった。
休憩無しで、半日以上何も口にしていない二人は無我夢中で食べた。
「うっまー!まじ美味いよ。ここ!」
「だろ?穴場よ穴場!」
「俺も通おっかなー俺もずっと外食だしよー」
「寂しいのぉ・・・」
「あー学友!外食するときは、俺もついでに誘ってくれよ」
「何でお前を誘わにゃならんの」
「いいじゃんよーけちっ!」
「おいっ!口に飯粒付いてんぞ!」
「そーいう学友こそ!」
学友は、何とも懐かしい気持ちになった。確かにこいつの事大嫌い
だったはずだと自問自答した。確かに好きではないが、嫌いでもない
そんな感じがした。
澄慶は、香港へ帰ってきて2日目にして、自分の居場所が見つかった
気がした。こんなに自分の思い通りに事が進むのは始めてだった。
こんなに上手く行っていいんだろうか?夢じゃないかと自分の
頬を何百回つねったことだろうか。この状況は、澄慶が夢に見つづけた
長年の夢だったからだ。
「お前って一体なんなんだ?俺の名前知ってたりさぁ変な奴だって事は
知ってっけどさー」
「俺は学友、お前をよく知ってるんだ」
−続く−
さーて終わった!白蓮にバトンタッチだ!後は頼んだ!!
−JOAこめんと−
ほんとに作者自体が全くの正反対なもんで、小説のキャラも全く違ったものに
なりまさーねっ!おもしろいもんです。さーまたがんばって書くぞぉぉぉ!
ご感想お待ちしております!!しっかし難しい・・・なのに阿蓮、いろんな小説
どんどこよくUP出来るなぁ・・・関心関心!同時進行でごっちゃになりませぬように
。あんまり早くUPしないように(笑)わしの遅さが目立つから(T_T)そしてみなさま、勉強
不足で申し訳ないです。精進しているつもりなんですが・・・・・(自称)
JOA上−2000/Sep/19
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