花のおもいで
次の日の朝五時、学友が店に来ると澄慶がほうきを持って店の前を掃いていた。
「おはよーさん」
「あっ昨日はごっつおーさんでした」
「次はお前のおごりだからな!」
そう言って学友は、店の鉄扉を開けた。澄慶は、表を掃きながら学友の店の前まで来て、掃きつづけていた。
「いいよー掃かなくても。そんなことしても、次はお前のおごりだっ!」
「ちっ」
「そういえば、ちゃんと開けられたんだな、鉄扉?!」
「学友様のおかげでありんす」
「だろっ?」
学友は嬉しそうに、うんうん頷いた。中に戻り仕入れる花をチェックしていた。店のドアだけ鍵を閉め、
店の前に止めてあった車のエンジンをかけた。
「どっか行くんか?」
「花の仕入れに決まってるだろ?あっそうだ!」
そう言うと学友は澄慶に店の鍵を投げた。澄慶は持っていたほうきを慌てて放り投げ、
鍵を受け取った。
「阿袋が来たら開けてやってくれ!わりぃなっ!いつもあいつ、表で座って待ってるんだ」
「何時ごろになるんだ?そんなに遅くなるのか?」
「香港って渋滞だらけだろ?渋滞に巻き込まれないように、朝早く行くんだが、何があるかわかんねぇ
から、頼むわ!まぁそんなに遅くはなんねぇはずだ」
そう言って学友は車に乗り込み、窓からばいばいーと手を振り走って行った。
「あいつが来て、何日になるんだろう?」
独り言で学友が呟いた。知り合ってたった3―4日で、大事な店の鍵を預けるなんてどうかしているのではないか?
反射的に鍵を預けたものの、普通では考えられない事だ。学友は、少し考えてみたが、自分の行動がよく解らなかった。
しかし大丈夫であろうという答えが出てきて、考えるのを辞めた。車のオーディオのスイッチを入れ、交通情報
に耳を傾ける。
「ただいま事故の為、海底トンネルは封鎖中」
「オイオイ!!!まじかよーっっ」
学友は、一体どんな確立だーと叫びながら、Uターンした。
「っきしょー!クオリーベイまで行かないといけないのか??誰だよ事故った奴ぅ!」
学友は、とっさに公衆電話を探した。携帯電話は性に合わないので、持たない主義なのだ。
いくつか公衆電話を見つけたが、何処も黄色い2本線が引いてあり、車を止めることが出来なかった。
「何なんだ?厄日か今日は・・・」
独り言をぶつぶつ言いながら、メイン通りより1本裏道に入り、公衆電話を探す。ようやく見つけて
電話ボックスに駆け込んだ。
「そういやー俺、あいつの店の電話番号しらねぇな・・・困った・・俺の店にかけてみるか!」
澄慶は、早速やってきた林叔と話し込んでいた。
「林叔!今日は負けませんよ」
「何言っとるんじゃ。まだまだ負けんわ・・劉じいさん遅いな・・・」
すると、遠くで電話の音が聞こえてきた。
「おはよう兄ちゃん。鉄観音おくれ」
劉叔が、少し遅れて店に入ってきた。自慢の鳥かごをぶら下げて、林叔の横に腰掛けた。
「隣の花屋の電話が鳴っとったぞ」
「えーっ!誰だぁ?俺出るのいややなぁ」
そう言いながらも、澄慶は、鍵を開けて店内へ入って行った。相変わらず良い匂いのする店だった。
電話に手をかけた瞬間、電話のベルが止んだ。
「監視カメラでもついてんのか?お約束すぎるぞ!」
捨て台詞を吐き、店を出ようとした時、再びベルが響いた。
「はいーもしもしこちら小鳥屋!」
「あのーあなた誰?」
「あー違った・・学友の花屋ですー」
「学友は?」
「・・・・あっ、学友は今、花の仕入れに行ってて居ないんですが。どちらさんで?」
「じゃぁいいの。又電話します」
電話は一方的に切られてしまった。澄慶はちょっとむっときた。
「誰だ今の感じの悪そうな女は・・・」
澄慶が、ぶりぶり怒りながら店を出ようとしたとき、又電話が鳴った・・・。
「だっからー学友は今、居ねぇっつーの!ひつこいなぁ!!」
「何だ?!その電話の対応は!」
「げっ!学友・・・」
「早く出ろよー何回もかけてんのに!」
「んなこと知るかよぉ・・今さっき変な感じの女から電話あったぞ!タカビーな感じの・・」
「えっ!?」
「何びびってんだ?そんなことより何よ・・用件は?」
「えっ?あ、あぁ・・海底トンネルが封鎖で、少し遅くなりそうなんだ、阿袋が来たら宜しく言っといて」
「はいよー」
さっきの電話の女と何かあるのか、学友の様子が変わったことが気になった。
「おはようございます」
元気の良い声が聞こえてきた。振りかえると彩袋が立っていた。
「あーおはよう!昨日は残念だったね。寂しかったよーん。あっ学友がなんか遅くなるって・・道が
塞がってんだってさ」
「わかりました!何かあったんですか?」
「えっ?何で?」
「何か顔がテカテカしてて、汗が・・・」
そう言うと、笑いながらバッグの中から、厚手のポケットティッシュを取り出してくれた。
「さんきゅっ!別に何も無いって・・・」
「ならいいんですけど・・あっ澄慶さんのお店の中から、おじいさんの声が聞こえてきて
、あやつ怖気づいて、逃げやがったなぁ・・・かっかっかっ!って言ってましたよ」
「似てるよ阿袋・・・じゃーじいさん達に一泡ふかせてくるわ!」
「がんばってくださいね」
「あっそうだ・・・学友って彼女いたっけ?」
「私にはわかりません・・・店長、あまりプライベートな話はしてくれなくて・・」
「ならいいんだ」
そう言うと澄慶は店を後にした。彩袋もエプロンを身につけ店内の掃除を始めた。
学友は、ようやく花を仕入れ、帰路についていた。
さっき、澄慶が言っていた女の事で頭がいっぱいになっていた。
「どうして今ごろになって・・・」
学友はようやく店に戻ってきた。普段なら、7時頃には店に戻ってきているはずだったが、今日は
8時を少し回っていた。あわてて車を店の前に止めた。
「おはよう阿袋!遅くなってごめんな。でも今日は店開いてたろ?」
荷物を下ろしながら、彩袋に声を掛ける。
「おはようございます。来たとき、澄慶さんが、お店の中にいて少しびっくりしました」
「そうかー鍵を預けといたんだ。いつも座って待たせてるから」
「そうだったんですか。今日はどんな花がありました?」
「今日のおすすめは、このカーネーションだな!色がきれいだったから、ついついたくさん仕入れたよ」
「ほんと!すっごく綺麗です!!説明のしようがない色合いですね」
「だろ?ひとめぼれってやつよ・・・」
学友がカーネーションに見とれていると、彩袋がクスッと笑って言った。
「店長って本当に花が好きなんですね。花を見ているときの顔って、こっちまでほのぼのしちゃいます」
「おー大好きだぞー花が無ければ、今の俺は無い!!たっくさん思い出が詰まってるしなァ」
「その思い出って、すごくロマンチックなことなんでしょうね」
「あぁ・・・・すごくロマンチックだな・・・あっ!澄慶!!阿袋、このカーネーションをアレンジして
並べといてよ!ちょっと隣に行って来るから」
慌ててカーネーションを5輪握って、学友は店を出た。隣を覗くと、将棋の真っ最中だった。
「あっ!!林叔・・・それはちょっと待った!!」
「待ったなんぞ、わしの辞書には無い!かーっかっかっか」
「くっそーあきらめんぞぉぉぉ!!うーーーぬっ」
「もうばんざいせんか!今から好転はのぞめんじゃろ?」
「いやだーまだ降参はしねぇよー」
「勝手に考えとれっ!わしゃ茶でも飲んどくから・・・」
真剣に将棋盤を見つめる澄慶に声をかけた。
「一生懸命無駄な抵抗をなさってる澄慶さーん」
「な、何をぅ!!これから勝つんだよ!!」
「行って来い若造ー!かーっかっかっか・・・」
「その高笑いがまた、かちーんとくるぜよ・・トホホ・・林叔・・ばんざいします・・」
「腕を磨いたらまた来なさい!かーっかっかっか!!」
澄慶は、手を握り締めながら店を出た。
「本当はもっと強いんだ。今日は負けてやったんだよ!それにしても遅かったじゃんか・・ほれっ店の鍵、確かに
返したぞ!」
「ごめんごめん・・・助かったわ。あっ!これやるよ」
「うわ!めちゃきれいなカーネーション!これくれるのか?」
「ほんのお礼だよ。この色が良いだろ?」
「何色って言うのかな・・・好きな色だよ。ありがとう!お前センスあるな!」
「あったりまえだろ!花をこよなく愛する、花屋の店長なんだから!」
「花くれるんだったら、いつでも鍵をあずかってやるべ!」
「ばーか・・・あのさーさっきの電話のことだけど、何か言ってなかったか?」
「別に何も・・・またかけるってさ」
「そうか・・・・ならいいんだ」
「さっきの女ってお前の彼女か?」
「いや、違う・・・正確には、今は違う・・かな・・」
言葉を所々濁しながら学友が言った。学友の曖昧な態度が、澄慶の勘にさわった。
「何なんだよ!!さっきの女は!!」
「はぁ?何をムキになって怒ってんの?お前にそんなことで怒られる筋合いはねぇぞ!」
「今付き合ってねぇのに、何で電話がかかって来たりすんだよ!」
「俺だって知らねぇよ!いちいちうるせーなぁ。どうだっていいだろ!お前には何の関係も無い」
「関係無くはない!!」
−続く−
どーだ白蓮!無理矢理展開してやったぞーい!どう続ける?おぬしの才能発揮だ!腕の見せ所でおます。
っつーより、すまんこってす。変な展開さしちまって・・・難しくってよぉ・・・しっかし
後は頼んだ!ケッケッケッ!!
−JOAこめんと−
リニューアルな展開にせよとの指令に困り果てた、私JOAは、ネタが浮かばず、
悩んで、悩んで悩みぬいた挙句、この始末。へた打ってたら、この回で終わっていたかも
・・・。(オイオイ)最終回は、すでに浮かんでいるのだが・・・(^○^)
JOA上−2000/Oct/3
小説トップへ!