自分勝手

おかしな空気が二人の間をすり抜けていく気がした。学友は自分が今言った台詞 がどういう意味を持つのかもう一度考えてみた。
(これが俺の答えなのだろうか?)
そう自問自答した。
(俺は彩袋が好きなのか?だから彩袋に纏わりつき、しかも付き合う事になった澄慶に監視の目を 置いているだけなのか?これってジェラシーなのか?俺の彩袋におかしな事をしないように澄慶を を見張っているのか?いや違う・・・彩袋の事は・・・俺は、俺は・・・)
沈黙が続き5分、いや10分は流れたかのように思えた。澄慶はたまらず口を開いた。
「学友はさぁ、俺の事そんなに嫌いなのか?そんなに俺と阿袋が付き合うのが嫌なのかよっ!」
学友は澄慶の言葉を全然聞かず、自分の行動、言動の意味を頭の中で 考えていた。頭の中の自分は、
(そんな事絶対だめだ!)
頭がおかしくなったんじゃないかと 叫んでいるようだった。しかし心の中の自分は、
(俺はゲイでもホモでも無い基本的には女が好きだ。)
でも、それはとても上辺だけのことで、人間として好きなんだとはっきりとわかった。
(俺は澄慶が好きだ。きっと女とか男とか関係なしに・・・澄慶だから好きなんだと・・。)
昔の思い出ばかりを引きずって、色恋沙汰には縁のない自分だった。自分が勝手に、 からに閉じこもっていただけなのかもしれない。答えが明確になってくると、ふっと顔がほころんだ。 澄慶は、ころころ変わる学友の顔をじっと見つめていた。ようやく学友が顔を持ち上げて言った。
「ごめんな。何でも無いんだ・・・」
「な、何が?」
「たぶんそのうちなっ」
「だ、だから何が?」
学友は整理途中だった伝票を机でコンコンと揃え、引き出しに直すと立ち上がった。
「さーて、今日もひまだったなー」
そう言うと学友は何事も無かったかのように、大きく背伸びをして、深く息を吐いた。
「そーだな・・・俺の店も、林叔と劉叔だけだった・・・トホホ」
「いつもお前の店から点心のいい匂いがするよ。そのうち繁盛するって!」
「そうなりゃ良いけど・・でも学友、お前の店だって本当にいい匂いがするよな」
「なぁ澄慶、お前携帯とか持ってないのか?」
「あっ、あるけど・・・」
「番号教えといてくんないか?」
澄慶は、あわててポケットを探り、よれよれのレシートを取りだし番号を書いた。
「ほれっ番号」
「おーさんきゅー何かあった時・・・えっあっあのほらっまた店の鍵を預けるかもしんないしよー」
「おっおうっ!!そうだな」
たわいもない会話も学友には、とても懐かしいような何とも言えない気がした。今日は表情で独り言を言う学友に 澄慶は少し戸惑ったが、学友に晩御飯を 以前行った店で一緒に食べないかと誘ってみた。
「いや今日は帰るよ。明日花の仕入れの時間が少し早いからまた今度行こう!お前のおごりで!!」
「忘れていなかったかぁぁぁ!!じゃーまた明日!!おやすみ」
「おーまた明日なっ!!」
予想通りの展開に澄慶は、ほっと胸を撫で下ろした。もし学友がOK出してたとしたら、 澄慶はかなり困っていただろう。今日はご飯を食べてても葬式のようだったに違いないと思った。 学友は店の鉄扉を閉め終わると、じゃあっと澄慶に手を振った。澄慶も手を挙げると お互い反対方向へ歩き出した。帰り道どこへ行くでもなく学友は街灯の少ない海街を抜け、考えを まとめる為に街を徘徊した。
(やっと気づいた。 俺は出会った時から澄慶が好きだったんだ。でも頭の中の俺が、相手は男じゃないか!何を変な考え起こして んだって、勝手にブレーキかけたんだよな。こないだあいつにキスしたのも、俺の頭の中にいつもあいつが いるのも・・・なーんだそうだったのか・・)
答えが判ったのに学友は涙が出てきた。
(俺って何て自分勝手なんだろう。あいつは普通なんだよ、だから阿袋といるほうが幸せなんだよ。 なのに俺が付き合ってください!なんて・・・言えるわけないよな。でも・・・俺も本当に普通なんだよ。 何もおかしくない。俺はただ澄慶が好きなだけなんだ。あいつと居ると本当の俺の居場所なんだって、 そう思えて仕方が無い、あいつの前なら何だって素直に話せるって・・・ だからって言えるのか?学友!!このまま友達してる方が、俺にもあいつにも阿袋にもベストなんじゃないのか? やっとキスしたいと思った意味も判ったのに、これじゃぁ答えなんかいつまでも出ないじゃねーかよっ!!)
自分のふがいなさに学友は拳を握り締め、売りに出ている店のシャッターを力任せに殴った。静まり返った、 街の中に、ガッシャーンという大きな音が響きまわった。近所の住人が数人、うるさい!!と叫んでいたが それすら学友の耳に入らなかった。 学友は結局これからさきどうすれば良いのか答えが見つからないまま家路に着いた。 家に着くとすでに夜11時を回っていた。学友は部屋に着くなり服を脱ぎ捨てながら、バスルームへ 向かった。シャワーを浴びながらも頭の中で二人の学友が言い合いになっていた。
「好きだと言ってしまえよ!」
「いーや男同士なんだぞっ!」
学友は知らずに自分の手が下半身へ下がっていくのを無理やり止めた。
「あぁぁぁっ!!何をやってるんだ俺はっ!一体何を想像して・・!!」
考えれば考えるほど澄慶が学友の心の中に入ってきた。男なのに触ったら壊れてしまいそうな白い背中、 細い線、眠っている時の寝顔も・・・いけないと分かっていても勝手に頭と心が想像してしまった。 だんだん自分が熱くなってきていたのが分かった。学友は頭を大きく何度も振り、お湯を止めて水だけを出して 頭から浴びた。少し冷静になれたが、体は心と想像に比例し冷めることはなかった。 風呂を飛び出した学友は、澄慶の携帯の紙切れを取り出した。くしゃくしゃになっていたが、手で丁寧にきれいに 伸ばした。画鋲を一つ取りだし、学友からよく見える壁に貼り付けた。ベッドに座り番号をじっと見つめた。
「あいつ・・俺の事嫌いじゃーないよ・・な?!好きじゃなくても、嫌いじゃないよな? だって近づいてきたのはあいつの方なんだから・・・嫌いじゃない・・・俺は嫌われていない・・」
安心したのか、学友は眠りについた。時計は夜中の1時を指していた。


−続く−
阿蓮、後はよろしゅうおたの申します。やっぱむずかし・・・もうどうしてよいかわからん ようになってきて、やりまくってやろうか!!なーんて(下品で申し訳ないこってす)思ったりも しましたが、いかんせん・・・・難しいので、今回は、これでかむべんしとくれやすぅ(T_T)
−JOAこめんと−
みなさまの期待を大幅に裏切ってのお話でした(^○^)「あれだけ引っ張ってこれかよぉ」
とか言わないでね・・お願いだから(T_T)いっぱいいっぱいなんす・・・はぁ、難しい。 JOA上−2000/NOV/12


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