冗談じゃない
手相を見ると自分から言い出したことを学友は少しだけ後悔した。
「だからー痛いって!!」
痛がる澄慶の声も、学友には聞こえなかった。耳の奥が熱くなって耳鳴りしている
ようだった。顔も赤くなっていた。学友は繋がる手から、澄慶に全てが伝わっていくような気がして、
慌てて手を放した。気づかれてはいけないと心の奥から二つ、声がした。しかし
言葉に出てきたのは前者だった。
「あ、あぁ・・すまん」
(離したくない。このまま・・・)
そういうと学友は立ちあがり洗面所へ行くと澄慶に伝えた。学友が、赤くなった
顔を元に戻そうと水で顔を洗った。タオルで顔を拭き鏡を覗きこむと、鏡の中には、
赤い自分の顔と、澄慶の心配そうな顔が映っていた。学友は驚いたが、冷静に振り返った。
「どうした?あっちで座っててくれよ」
「どうしたんだよ学友。なんか変だぞ・・・それに顔、真っ赤・・・」
学友は慌てて鏡を覗きこんだ。顔だけじゃなく、耳も首も真っ赤になっていた。
「さ、酒のせいだろう。何も無いって。いつもの俺だろ?」
「じゃぁさっ!さっきの続き見てくれよ。恋愛運とか・・・」
(冗談じゃない!また手を?!そんな事したらまた元のモクアミだよ)
心の中で学友は叫んだ。
「いやまた今度見てやるよ。今日は鈍ってるみたいだし・・・酒のせいで」
「そっか・・じゃぁ今度な!」
そういって澄慶は先にリビングへ向かった。学友はもう一度顔を水で洗い、鏡を
覗きこんで顔色を確認した。元に戻り、学友はリビングへ戻った。するとそこに
座っているはずの澄慶がいなかった。学友は澄慶の名前を呼んだ。
「澄慶?!」
返事が返って来ないので、学友は他の部屋を探してみた。すると
ベッドルームの暗がりの中に澄慶の姿を見つけた。学友はあわてて澄慶を自分の方へ向かせた。
「何してんだ?」
「これって・・・俺の携帯だよな?そしてこの写真・・・」
「あ、あぁそれはお前の電話番号だな・・それは」
「この写真って何?」
「これは俺の・・・まっいーやっ!過去の思い出ってやつだよ」
「そ、そう・・・なんでこんなとこに貼ってるの?この写真?」
「寝るときに見るとさ落ちつくんだよ」
「俺の番号も?」
「な、何言ってんだ?怒るぞ!!たまたま・・・」
学友が必死で言い訳をしていると、澄慶が割って入ってきた。
「俺さー学友の事好きだよ。だからいろいろ知りたいって思うし、話して欲しいと思う」
学友は胸が詰まり、心臓が大きく鼓動を鳴らしていた。学友は一瞬頭が真っ白になり、
今までこらえてきたものが爆発した。側にあるベッドに澄慶を押し倒した。
何をどうして良いかも分からず、ひたすら無我夢中で澄慶を抱きしめた。学友の鼓動や、
ハァハァと言う熱い息、強すぎる力が全部澄慶に伝わった。
「お、おい!学友!!お前何考えてんだ!馬鹿っあほっ俺に触るなー!!」
澄慶が学友を制止た。学友はようやく我に戻った。
「えーっと・・ごめん・・・お前がその・・・なんだ・・・あの・・・」
「やっぱ変だよ!最近の学友!俺は男だぞ!男同士で何するつもりだ!ばーか!!」
「すまん。違うんだ・・・これにはいろいろと事情が・・・」
「事情?たまってるだけだろ?はけ口にするなよ俺を!!誰でも良いんじゃねぇのか?」
「ち、違う!お前だからっ・・・いや何もない。まじでごめん・・・だから・・・」
学友は、深く反省した。しかし悟られまいと、その場を取り繕ってみた。
「冗談だよ!お前が好きだなんて言うから・・・からかってみただけ!てっきり・・なーんだ嘘だったんだ」
「違う!!」
学友も澄慶もこみ上げてくるものをこらえ、必死で話した。
学友のその声は少し震えているように、澄慶は感じた。澄慶はこれ以上
言っても仕方が無いと思い、学友が冗談だと言うのなら、
冗談だったと受け取ることにした。
(学友の熱い息、速く打つ鼓動、堅くなった体の一部・・・冗談なんかじゃなかった。
もし俺が止めていなければ・・・)
澄慶は心の中で学友の行動が冗談じゃなかったと気づいていた。
学友と澄慶は再びリビングへ戻り、なんとか雰囲気を元に戻そうと話をはじめた。
さっきの事は、お互い何も無かったかのように・・・・。
結局買ってきた缶ビールを全部飲み干し、二人はリビングで眠りについた。
明け方近く、学友が目を覚ました。第一に横で寝ているであろう澄慶の存在を
確認した。
「ちゃんといる・・良かった・・」
そのまま着替えもせず、布団もなしで寝ていたことに気づき、学友はベッドルームへ
行き、ブランケットを持ってきて、澄慶にそっと掛けた。本当は以前のように、抱きかかえて
ベッドまで連れて行こうとも思ったが、澄慶に「触るな」と言われたことが引っかかり、
出来なかった。
学友は少しほっとしながらも、少し傷ついていた。ソファーに腰掛け澄慶の寝顔を見つめながら、
頭の中で思考錯誤していた。
(やっぱり寝顔・・・かわいいなぁ。このまま時間なんか止まってしまえばいいのに。
もし止まったら、俺このままずーっとこいつの寝顔見ていられるのに・・・さっき俺の事好きだって言ってた。
だから俺、我慢出来なくなったんだよな。澄慶に・・気づかれた
かな?いや、大丈夫だよな。じゃなかったらとっくに帰られてるはずだ。でも澄慶・・・
俺に触るなって言った・・・)
いろいろ考えてるうちに、答えが出ないまま寝てしまった。
朝、とても言い匂いがして学友は目が覚めた。澄慶が、仕事用の学友のエプロンを着けて、朝食を
作っていた。テーブルには、もんもんと湯気の上がった出来立ての海鮮粥とやきそばと油條が
並べられていた。感心してみている学友に気づいた澄慶は、こちらへどうぞと手で合図を送った。
「・・・・」
昨日と言えど、ついさっきの出来事や、考えが頭を
よぎり、学友は声にならなかった。澄慶は慌ててエプロンをはずし席に着いた。
「冷蔵庫の中何も無かったから、ありあわせだけど・・・」
「何でも出来るんだな。感心感心!うまっそー早速いただきまーす!!」
澄慶は、大きなどんぶりに入っている粥を小鉢に入れた。
「あっちーでもうっめー!!まじでうめぇよ!!それに家で朝食食うの初めてだし!」
妙な空気を何とかしようと、学友がわざと明るく言った。
おいしそうに食べる学友に、澄慶はとても満足していた。
「これくらいでよかったら、いつでも作ってやるさー」
澄慶は胸を張って言った。昨日の事も何も無かったかのように、ゆっくり朝食を取った。
4人前はあろう朝食を、全部たいらげていた。澄慶は空になった器を下げ、またエプロンを着け、
食器を洗ってくれていた。学友は時計を見た。すでに八時を回っていた。
「やばい!!澄慶洗い物置いといていいよ!帰ってきてから俺がやるから!」
「えーいいよー俺がやっておくって・・・」
「じゃー俺、先に行くぞ!もう八時過ぎてるよ!阿袋に怒られる!!仕入れも!!」
慌てて服を着替え、学友は澄慶に部屋の鍵を渡した。
「これ鍵!閉めておいてくれ。悪いな!じゃー後で!!」
学友は慌てて部屋から出ていった。澄慶は、洗い物をしながら、食事中の満足げな学友の顔や、昨日の余韻
をひしひしと感じていた。片づけが終わり、澄慶はベッドルームへ向かった。
壁に貼られた、学友が大切にしている写真を指で何度もなぞって深くため息をついた。
部屋の電気を消して、戸締りも確認して、澄慶は学友の部屋から、店に向かった。
すでに学友の店は営業を始めていた。中を覗きこむと彩袋が澄慶に気づいて、嬉しそうに
澄慶に駆け寄ってきた。
「おはようございます!どうしたんですか?今日は少し遅刻?」
「あ、あぁ・・・そうなんだ。あれっ学友は?」
あいさつもそこそこの澄慶に、彩袋は少しだけムッとした。
「店長も今日は遅刻して、今花の仕入れに行ってますけど」
「悪いけど、これ学友が帰ってきたら渡して置いてくんないか?」
「鍵?ですか?」
「そうだよ。あっ俺のじゃないよ!学友の部屋の鍵だよ・・」
「てん・・・ちょうの・・?」
「じゃー頼んだよ阿袋!」
そういって澄慶は、自分の店を開店させた。開店してすぐ澄慶の携帯電話が鳴る。
「おー澄慶か?何?もう店に来たのか?今日はまじで美味かった。今日一日がんばれる
味だ!!」
「また作ってやるよ!あっ!部屋の鍵、阿袋に預けといたから・・・いい花見つかった?」
「阿袋に?そうかわかった・・・あぁ花なぁ・・時間が時間だけに、今日はそこそこの
花しか残って無かったよ。とにかく今から戻るからさ!」
「おーわかった!」
そういって電話が切れた。すぐにまた電話が鳴った。店の電話だ。
「おい若いの!今日は休みなんか?」
元気の良い林叔の声だった。
「いえ開いてまーす」
「さっき劉じいさんと、そっちへいったんじゃぞ。店が開いてなかったので、家に帰ってしまった
わい。まぁ良いわ。今から行くからちゃんと開けとれよ。年寄りの唯一の楽しみを奪うな若造」
「りょうかーい。最高に美味い点心を用意してお待ちしておりやす!!」
彩袋の耳に、遠くから、今にも止まりそうなエンジン音が聞こえた。
少しすると学友が仕入れから戻ってきたので
彩袋は学友を出迎えた。
「今日のおすすめは?」
「・・・・・無し・・で」
「間に合わなかったんですか?でもさっすが店長!この花きれいですよー!これおすすめにしましょうよ」
「そうか?阿袋がそう言うなら・・・その方向で・・」
彩袋がポケットから鍵を取り出し、学友に渡した。
「はいっ!これ・・澄慶さんが・・・」
「あっ!あぁ・・・サンキュ」
学友は少しバツ悪そうにお礼を言った。学友は彩袋は、ある意味三角関係だからだ。
「店長も遅刻、澄慶さんも遅刻、そして鍵・・・うーん・・」
「ばっ、ばーか!!何言ってんだ。早く花を直して!」
「はーい」
少しだるそうに彩袋が返事をした。
−続く−
はぁ・・・やっと出来た。早いでしょ今回は。
でもまたしても期待を裏切っちゃってます?
やるのはいつでも出来る!いかにひっぱるか(鬼)すまんこってすみなさま。
−JOAこめんと−
白蓮とネタについて討論しているときは、あーでもないこーでもないって
たくさん話しが浮かんでくるのに・・・どうしてだろう。本番に弱いわし・・。
JOA上−2000/NOV/29
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