差し迫る危機

学友は口に入れた瞬間、何か懐かしい気持ちが心の中に衝撃として走った。 しかしそれが何を意味するのかが全く解らなかった。学友は澄慶の顔を見た。澄慶は 学友の顔を見ず、言葉も無く、意味ありげな笑みを浮かべた。学友はこの懐かしい 記憶が何だったのか思い出そうと記憶を順番に辿ってみた。しかし、遠い記憶の中に 埋もれた味覚が取り戻せなかった。
「どうした?まずいか?」
澄慶はうっすらと笑ったまま学友に問い掛けた。
「い、いや・・・うまい。冗談抜きでまじにうまい・・何か これ、昔食べたことあるような、 気がするんだよな・・・でも何時、何処でだか思い出せねぇ」
「ふーん。昔ねぇ・・そっか。とにかく喜んでもらえて良かった」
「これ・・・・どうやって作ったんだ?」
「どうって別に・・・普通に作っただけだ。俺の愛が詰まっているから 一味違うんだろう」
そう言うと澄慶はまた意味ありげな笑みを浮かべた。
「な、何言ってんだよ!その台詞くさすぎ!いまどき「愛」とか言ってんじゃないよ!」
「とか何とか言って実は嬉しい?」
「ば、ばっかじゃねーの?!」
学友は自身の顔が徐々に熱くなっていくのが解り、必死で隠そうと下を向いて ひたすら食べた。
「ほら照れてる。その歳で動揺を隠せないなんて・・・ウブだねぇ」
「あほな事言ってんじゃねぇよっ!」
澄慶はゲラゲラ笑った。笑うだけ笑った後、澄慶が口を開いた。
「これは俺のおふくろの味なんだよ。絶対気に入ってもらえると思ってたよ」
「おふくろさん?いいなぁお前・・・こんな美味い飯、いつでも食えるんだろ?
俺のおふくろはあんまり上手じゃなかったからなぁ・・・」
「そうそう!結構まずかったよなー特に蒸し物は・・・」
学友が持っていたレンゲを置いた。
「何でお前が言うんだよ。まるで食ったこと有るみたいじゃねーか!」
「い、いやなんとなくだよ・・・学友の顔見てたら、想像ついちゃって・・」
澄慶はしどろもどろになりながら何とか取り繕った。学友は、澄慶の目を じっと見ながら口を開いた。
「でも蒸し物って何で知ってるんだよ?!確かにうちのおふくろは蒸し物が 大の苦手だったけどさぁ・・・」
「学友の顔からすると、おふくろさんって蒸し物へたそうなんだよーって、 冗談冗談・・・さぁー後片付け後片付け・・」
そう言うと澄慶はそそくさと台所へ逃げこんだ。 学友は不思議そうに澄慶の背中を見つめた。何か引っかかりながらも澄慶の言葉に 納得をした。
「俺の顔って・・一体・・・蒸し物まずそうな顔?いや、あいつの言い方はまるで・・・」

「店長遅いなぁー連絡もないし・・・どうしちゃったんだろう・・ 澄慶もまだ来ていないようだし・・・」
彩袋は、ガラスのショーウィドウを拭きながらぶつぶつ独り言を言っていた。 そこへ林叔が早速将棋を打とうと自慢の鳥かごをぶら下げてやって来た。
「おぉ阿袋、今日もがんばっとるのぉ」
「あっ!林叔、おはようございます」
「何じゃ、まだ若造はきとらんのか?」
「そうなんですよぉ。澄慶さんもまだみたいで・・・」
「まったくあいつだけは!!いつもこの年寄りを待たせてからに!!」
そこへ、これまた自慢の鳥かごをぶら下げた劉叔がやって来た。
「おはよう」
「あっ!劉叔、おはようございます」
「おぉ劉叔・・・あやつ又しても遅刻じゃ・・」
「何?またか?!何度言ってもだめじゃのぉ・・仕方ない林叔、 やつが来るまで勝負はお預けじゃ・・・先の茶店で時間でも潰すかのぉ」
「阿袋、やつが来たらいつもの茶店にいるから迎えに来るよう言ってくれんか」
「解りました。お伝えします」
腰を曲げながら大事そうに自慢の鳥かごをぶら下げ、二人 のおじいさんはゆっくりと歩いて行った。
彩袋が仕事を再開しようと振り返ったとき、一瞬目の前に大きな壁が出来あがって いて、その壁に顔をうずめてしまった。
「あっ!ご、ごめんなさい。ぼぉっとしちゃってて・・」
顔を上げると、黒いサングラスをかけた大柄な男が3人立っていた。 中の一人が口を開いた。
「ここのオーナーはどこだ?」
「はい?」
ず太い声が聞こえ、一瞬何が何だかわからず、何と答えていいか解らない 彩袋はその場でたち尽くしオロオロした。
「オーナーはどこだと聞いているんだ!」
男の口調が強まった。少し訛った広東語だった。
「あのぉあなた方は、誰なんですか?」
「どこなんだっ!!」
「きゃっ!」
一段と強く男が聞き、彩袋の腕をぎゅっと握った。
「いたっ!」
中央に立つボスらしき男がつかんでいる手を放させ、彩袋の 手を握っていた男を叱咤した。
「恐がらなくていい。あんたのボスの居場所を教えてくれれば いいんだ。早くしないと俺はもうこいつたちを止められない。 あんたにも危害が加わることになる。さぁ早く言うんだ」
彩袋は夢でも見ているんじゃないかと思った。 あまりにも映画のような事が目の前で起きているので、 どうしていいかわからなかった。あまりの緊張で、口を開こうにも 思うように動かなかった。痺れを切らした一人の男が口を開いた。
「兄貴!だめですぜ。こんな小娘やっちまいやしょう」
男の言葉が台湾語のようだったので、彩袋には全く理解が出来なかった。 子分の話を聞いていた、ボスらしき 男が台湾訛りの広東語で言った。
「まぁ待て!焦るな。香港人は物分りの良い方々だ。もう少し待ってやろう じゃねぇか。なぁ彩袋さん」
「な、何で?私の名前を?」
「俺達は何でも知ってる・・・弟さんいるんだって?・・かわいいねぇ・・」
彩袋は、ゾクッと背筋に寒気が走った。重い口から勝手に声が出てしまった。
「い、いやぁぁ」
「大丈夫、さぁ早く言うんだ」
弟の話を出された彩袋は学友のマンションの住所を教えた。


−続く−

−JOAこめんと−
うわぁぁぁo(;△;)o みなさま本当にごめんなさいです。m(j◇j)m 一体何ヶ月 止めてけつかんねん!ですよね・・深ーく反省しております。 しかもこれからって時にまたしても白蓮に振っちゃう私・・・。 小説自体書いたこと無いのに、書かずにいたらあっという間に 退化しちゃいました・・・。本当にすみませんでしたー。 コレに懲りずに、お付き合いよろしくお願いいたします。 JOA上−2001/Aug/10


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