夢から醒めて、核心へ

気がつくと次の日の朝になっていた。学友は枕元に置いていた時計を掴んで時間を見た。午前6時。とっくに花を仕入れる時間を過ぎていた。
大きくため息を吐き出すと、置き上がりベッドのサイドに座った。澄慶は横で静かに眠っている。
ここにいつまでもいてもいつかはバレる、か・・・。一体なんで澄慶は追われてるんだろう?
学友はぽんぽんと膝を叩きながら、もう一度澄慶の顔を見る。艶っぽい顔をしている。出会った頃よりも、一週間前よりも、昨夜よりも。
じっと見ているとその気配が伝わったのか、澄慶が目を開けた。
「おはよ」
「おはよう・・・今、何時?」
澄慶が起き上がりながら聞いてきた。学友は立ち上がった。
「6時半。さて、どうするよ?」
「ずっとここにいたい」
「アホか、不可能な話すんなよ」
「とにかくここに学友と2人でずっといたい」
澄慶の真っ直ぐな視線に学友は何も言えなくなってしまった。澄慶の性格が変わってきたように思う。
こんな切なげな表情をする奴じゃなかった筈だ。もっと豪快で自己中心で何があったって自由に飛び回るような奴だ。
「ここにずっと居れたら俺のこと、もっとよく分かる」
「何・・・もう分かってるよ」
「俺の謎のこと。ここにずっと居れたら俺が何も言わなくても、学友の知りたかったこと全部」
「謎!?だ〜〜〜めんどくせえな〜SEXしたいならしたいってちゃんといいな」
言い終わった途端学友の目の前に火花が散った。澄慶がどうやらグーで学友の頭を殴ったらしかった。本当にマンガみたく火花散るんだな、と一部冷静な部分で学友は感心した。
「って〜〜〜!!何すんだよ!お前から誘ったんだろ?」
澄慶は本当に腹が立ったのか、ベッドから素早く起き上がると窓の傍まで行ってポケットを探っていた。右ポケットからタバコを取りだすと口にくわえた。
「あ〜〜〜〜!!お前、タバコ止めるって言ったくせに!!」
「気が変わったよ。学友があまりに下品だから気分が悪くなった」
澄慶はそれだけ言うとタバコに火をつけた。学友は信じられないと言った面持ちで大袈裟に首を振った。
「おいおいおい〜〜!!俺が下品だって!?最初に欲情したのはお前だぞ!!?」
「・・・話がすりかわってるじゃないか。俺はSEXの話なんかしていない!」
澄慶も負けじと学友を指差して非難した。
「じゃあ、何の話だ?何の謎だ?え!??」
「だから、なんで俺が追われてるかとか!!」
「何で追われてるんだ!?」
「俺がただの澄慶じゃないからだ!!」
澄慶は言ってしまってから慌てて口を押さえた。すぐにごまかすようにタバコを吸った。
「ただの・・・澄慶じゃない・・・?」
「いや、もういいよ。忘れてくれ、なんでもない」

結局2人は午前中にチェックアウトを済まし、取りあえず学友の家へ向かった。車も何もないのでバスに乗った。
2階に上がって、2人掛けのシートに並んで座るとちょっと窮屈だった。言い争った後なので、澄慶は窓側の席で窓の外ばかりを見ていた。学友は学友で澄慶のさっきの台詞を何度も反芻していた。
学友が何か言いかけようとして澄慶の顔を何度も見るが、澄慶はワザとらしく窓の外へ顔を向けた。窓は少し開いていて、生温い風が乾物屋の独特な匂いを運んで中に入ってきた。澄慶の髪が風になびく。その様子を見ながらやっと学友は口を開くことが出来た。
「臭いな」
澄慶はようやく驚いた顔をこちらに向けた。
「俺じゃね〜よ!!」
「え?誰もお前が屁をこいたなんて言ってないけど?」
学友がとぼけたように言い返した。澄慶はそれ以上は言わずまた窓に顔を向けた。
「つまらね〜事でムキになるなよ」
更に学友が続けるが、澄慶は何も言わなかった。さっきよりも重い空気が2人の間に流れた。時折バスの急ブレーキの音が割って入るだけだった。
学友も澄慶と反対の窓側を睨んでいた。2人共黙ってしまった。バス停に止まる度、2人の体は前のめりになるが顔はお互いそっぽを向いていた。そっぽを向いてはいるが、そしらぬ顔をして学友は澄慶の右手を握った。澄慶も黙って学友の手を握り返してきた。
バスを降りてからは、目立たないように2人離れて歩いた。
「ここの方がヤバくね〜?」
家に着いてから澄慶が怪訝な顔で学友に尋ねた。
「見つかる時はどこに居たって見つかるよ」
学友は答えながら冷蔵庫を開けた。
「おい、腹減ってないか?俺、もう死にそ〜」
冷蔵庫の中には結構食料品が入ってた。それを見て澄慶は両腕を組んで口笛を吹いた。
「おや、見直すね〜。自分で料理するんだ?」
学友は笑った。
「実は前に澄慶が来て以来、ある程度入れておく事にしたんだ」
そう言って両手を大きく開いた。
「それって、俺にまた作ってもらおうと?」
「まあ、そんなとこ。ダメかな?」
「別にダメじゃね〜さ」
澄慶は冷蔵庫の前に立ってる学友をゆっくり手でよけると自分で勝手に冷蔵庫の中の食品を選別して取り出した。
「あ、この時菜はダメだね。黄色くなってる。冷凍した野菜とかない?」
あいにくそこまでマメじゃなかったな、と学友は答えた。澄慶がどうにか使える椎茸とピーマンとミンチ肉としょうが等を取り出した。
すぐに野菜を切り始める澄慶を見てると不思議に心を奪われた。鮮やかな手つき。ミンチ肉と野菜を混ぜる姿もサマになってる。
「・・・お前、女に生まれた方が良かったかもな」
ぽつりと学友が言った。澄慶はこちらを見ずに動きを止めて答えた。
「女に生まれてたらどうなったかな?俺達」
学友はすぐに答えれなかった。澄慶の目には涙が浮かんでいるように見えた。息を大きく吐き出すと学友は何とか口を開く事が出来た。
「どうなったかなんて考えても意味ないよ。俺らは俺らでしかない」

久しぶりに食べる食事は水餃子だった。澄慶が学友の分を入れて、テーブルの上に置いた。スープの蒸気が澄慶の顔にダイレクトにかかり、熱くなった。
「早く、食べようよ、冷めるって」
学友はまだ席に着かず壁にもたれていた。澄慶が追われてる訳をまた考えていた。
「何してんだよ、学友」
「ハ〜イ、食べま〜す」
学友は観念したように席に着いた。
「うわっうまそ〜〜!!頂きま〜す♪」
学友は一口食べて、舌を火傷しないように慎重にスープを飲んだ。口の中になんとも言えない良い香りが広がった次の瞬間、レンゲを手から落としていた。
「こ・・・これ・・・!!?」
学友が目を見開き澄慶を食い入るように見た。手が震えた。足から頭の天辺まで痺れが通過して、鳥肌が立った。
澄慶は学友をにっこり笑って見つめた。



つづく。
今回は真面目な展開を振ってみた。(笑)
JOAの技量に任せよう・・・あ、しかし展開が当初から外れたら困るので一応私の案はJOAに伝えておこう。
さてそろそろクライマックスが近づきつつありますが、JOAが三輪車からバイクに乗り換えてくれないと感が鈍るので宜しく。(笑)
こういうまともな展開の方がきっと難しいと思うぞ、例のシーンより。ええ、JOAよ。
さて、皆様、ただのヤバヤバ小説じゃないですからね〜。安心して読み続けて下さいよ。是非、感想宜しくです!!

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